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山声人語 vol.1

▽「ローマ」と聞いて思い浮かぶイメージはなんだろう。美術室に飾ってある彫りの深い人の顔か、コロッセオで猛獣と闘う剣闘士か、はたまた漫画『テルマエロマエ』で描かれたような公衆浴場かもしれない。はるかいにしえの都は、遠く離れた僕ら日本人にもどこか身近で憧れの土地だ。

▽“すべての道はローマに続く”という有名な言葉がある。僕はローマと聞くとなぜか真っ先にシルクロードを思い浮かべてしまう。幾多の旅人が行き交ったユーラシア大陸の道。その道の終着地点と言われる奈良に住んでいたかもしれない。途方もないことだけれど、小さな島国の盆地から、自分の足だけを頼りに歩いていけば、いつかローマにたどり着く。 ▽“千里の道も一歩から”という言葉もある。大好きな写真家・石川直樹さんは“スモール・ステップ”という表現を好んで使う。どちらも一歩一歩の積み重ねがいかに大切かを説く、あたりまえの、あたりまえだからこそ、胸に刻みたい言葉だ。 ▽それは“山を登る”ということと、本質的にとても似ている。目標とする場所があり、最初は「本当にたどり着けるのだろうか」という不安にかられる。しかし小さな一歩を積み重ねて、積み重ねて、積み重ねていくうちに、はるかなる頂に立ち、絶景を目の当たりすることができる。目の前に連なる山々の緑、抜けるのような空の青、夕暮れに染まる薄紅色。山登りの醍醐味はこの一点にあると言っていい。道すがらの困難や肉体の疲労はこの瞬間、風に吹かれたようにさらりと忘れ去ってしまう。

▽この小さな山岳会にも目標がある。それは今の経験や技術では、口にするのもはばかられるような大きな目標だ。しかし、一歩一歩行けば、必ずやたどりつけると信じている。それはもしかしたら、ご飯を食べ、仕事で失敗し、へこたれて眠りにつき、また朝を迎えるというという、何気ない日常の延長線上にある“生きる意味”とつながっているのかもしれない。おおげさな表現だとわかりつつ、生きていくということは、案外そんなものなのかもしれないとも思う。

▽“ローマは一日にしてならず”という言葉もある。焦らず、慌てず、そよ風に吹かれるようにのんびりと進んでいきたい。時に道ばたの高山植物に目をやり、野鳥の声に耳を傾けながら。


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